鹿児島地方裁判所 平成8年(行ウ)1号 判決 1997年6月20日
原告
有限会社朝生水産
右代表者代表取締役
朝生秀敏
右訴訟代理人弁護士
増田秀雄
被告
鹿児島市長
赤崎義則
右訴訟代理人弁護士
池田
同
福元紳一
主文
一 被告が、原告に対し、平成七年八月二四日付け魚市第一八四号をもってなした原告の鹿児島市中央卸売市場魚類市場水産物部売買参加者承認申請につき非承認とした処分を取り消す。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告がなした主文掲記の処分(以下「本件処分」という。)は鹿児島市中央卸売市場業務条例施行規則(以下「施行規則」という。)二九条三項の裁量権の範囲を逸脱してなされたものであって違法であるなどと主張して、その取消しを求めたのに対し、被告が、本件処分は、原告が売買参加者の非承認事由を規定した鹿児島市中央卸売市場業務条例(以下「業務条例」という。)二八条四項二号の「卸売の相手方として必要な信用」を有しない者に該当し、あるいは、施行規則二九条三項に基づく裁量権の合理的な範囲内でなされたものであるから、適法であるなどと主張して、これを争っている事案である。
一 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
1 当事者の地位(争いがない、弁論の全趣旨)
原告は、昭和五四年四月二日に、鮮魚卸売業、鮮魚仲買及び販売等を目的として大分県津久見市(以下「津久見市」という。)において設立された有限会社であって、津久見市においては、ぶりの養殖業を主体とした事業を行い、鹿児島市においては、同五五年一〇月ころから営業所を設置して、鹿児島市中央卸売市場の仲卸業者から買い受けた水産物を県外の卸売市場の卸売業者に販売する業務を行ってきたものであるが、平成七年六月二六日に本店を鹿児島市に移転している。
2 本件処分(争いがない)
原告は、被告に対し、平成七年七月七日、業務条例二八条に基づいて鹿児島市中央卸売市場魚類市場水産物部売買参加者(以下「売買参加者」という。)の承認申請をした(以下「本件申請」という。)。
これに対して、原告は、同年八月二四日付け魚市第一八四号をもって右申請を非承認とする旨の本件処分をし、同日、これを原告に通知した。
原告は、被告に対し、同年九月一三日付け申立書をもって、本件処分の取消しを求めて異議申立てをしたが、被告は、同八年一月三一日付け魚市第三二六号をもって、原告は津久見市から鹿児島市に本店を移転して間もないこと及び原告が売買参加者として承認されることにより、今後、魚類市場への県外の大手水産業者の参入に連なり、仲卸業者の経営を圧迫し倒産を招きかねないなどの理由で、関係団体から反対の意向の申入れがなされていることから、本件申請を承認したならば、取引の適正化及び流通の円滑化を阻害するおそれがあり、いたずらに市場内の混乱を招く結果になりかねないことを理由として、右異議申立てを棄却した。
3 争点以外の要件の充足(争いがない)
原告は、被告に対し、本件申請に際して、業務条例二八条三項、施行規則二九条一、二項及び魚類市場売買参加者承認要領(以下「承認要領」という。)五条所定の承認申請書及び添付書類を提出したが、原告の本件申請は、業務条例二八条四項一、三及び四号の非承認事由に該当しないものであった。
二 争点
本件処分は、裁量権を逸脱した違法なものであるかどうか。
(被告の主張)
1 鹿児島市中央卸売市場の目的、特質等
(一) 鹿児島市中央卸売市場の開設目的
中央卸売市場は、生鮮食料品等の流通及び消費上特に重要な都市及びその周辺の地域(以下「開設区域」ともいう。)における生鮮食料品等の円滑な流通の確保及び右地域外の広域にわたる生鮮食料品等の流通の改善を目的とし(卸売市場法一、二条。以下、同法を単に「法」という場合がある。)、鹿児島市は、農林水産大臣によって中央卸売市場開設区域(五条)と指定されて、鹿児島市中央卸売市場を開設しているから(八条)、鹿児島市中央卸売市場の目的は、鹿児島市における生鮮食料品等の円滑な流通の確保及び鹿児島市外の広域にわたる生鮮食料品等の流通の改善にある(以下「開設目的」ともいう。)。そして、鹿児島市は、平成八年二月ころ、農林水産大臣の定めた第六次中央卸売市場整備計画(平成八年度を初年度とし、同一七年度を目標年度とするもの。同八年三月二五日公表)の資料として中央卸売市場整備計画書を作成し、鹿児島市中央卸売市場のうち、魚類市場について鹿児島県内に第一ないし三次供給圏(第一次供給圏には鹿児島市を含む。)を設定している。
(二) 鹿児島市中央卸売市場の特質
鹿児島市中央卸売市場は、上場される魚介類の約八割が鹿児島県内で消費され、生産市場としての性格よりも消費市場としての性格が強い市場であるから、前記開設目的は十分尊重されなければならないところ、売買参加者の承認が緩やかに行われれば、競争原理の導入による適正な価格の形成が期待できる反面、前記供給圏外の大手の業者が不定期に多量の魚介類を買い付けて、供給圏内の消費者に対し、多種多様の魚介類を適正な価格で安定的に供給することができなくなり、かつ、生産者に対して継続的、安定的な販売ルートを確保できなくなるし、売買参加者の過度の増大は、せり・入札の能率的かつ適正な運用を阻害することにもなる。したがって、売買参加者の承認、非承認の判断は、市場の実態を基本に見据えつつ、鹿児島県内における魚介類の流通の円滑化、競争原理の導入による適正な価格の形成等の対立しかねない様々な社会的利益に十分配慮して、総合的になされなければならない。
(三) 承認要領の改正に至る経緯
(1) 積送業者
中央卸売市場においては、通常、せり権を有しない者の卸売場への入場は認められないが、鹿児島市中央卸売市場魚類市場においては、右入場制限が徹底されず、せり権を有しない者の卸売場への入場が放置されてきたために、せり権を有しない者が卸売場内で仲卸業者に対して競り落とさせる魚介類の種類、数量及び値段を具体的に指示し、仲卸業者が競り落とした右魚介類を購入して鹿児島県外の市場に出荷するという形態の業者、即ち積送業者が発生した。
しかし、せり権を有しない者の卸売場への入場を放置したために、卸売市場の秩序が保てず、取引が遅延し、記帳漏れや盗難が頻発するとともに、卸売場内の衛生管理が徹底できないという問題が生じた。
(2) 承認要領の改正
そこで、右問題点を解消するため、平成五年四月一日以降はせり権を有しない者の卸売場への入場規制を徹底し、積送業者について特別入場許可を与える一方で、一定の範囲の積送業者について売買参加者としてせり権を付与する方向での承認要領の改正作業が進められた。
しかし、専ら鹿児島県外の他市場への出荷を業務とする積送業者は、そもそも前記開設目的を阻害するおそれを有する存在であるので、積送業者へのせり権の付与という目的と右開設目的との調和を図るために、法人の場合にはその主たる事務所の所在地が鹿児島市内にあり、またはその主たる事務所の所在地が鹿児島市内を除く鹿児島県内にあり、鹿児島市内に支店又は営業所を置いていること(承認要領二条三号)、継続して三年以上の事業実績があること(同三条四号)、申請に係わる取扱品目の部類に属する物品の仲卸業者からの前年の年間買受額が一億二〇〇〇万円以上であること(同三条六号ウ)などの制限を設けて、鹿児島県内の一定規模以上の積送業者について売買参加者として承認することとされたものである。
右承認要領の改正は、平成七年七月一日から施行された。
2 業務条例二八条四項二号の該当性
(一) 業務条例二八条四項二号の意義
業務条例二八条四項は、一ないし四号に非承認事由を限定列挙し、二号は申請者が「卸売の相手方として必要な信用」を有しない者であることを規定しているが、右「卸売の相手方として必要な信用」には、前記開設目的を阻害しないことという意味での信用も含まれるのであり、施行規則二九条三項も、売買参加者の承認に際して「取引の適正化及び流通の円滑化に資するよう十分配慮」すべき旨を規定している。したがって、被告は、右「信用」の有無の判断について裁量権を有しているというべきであるところ、右裁量権に基づいて、承認要領二条に右信用を有する者を限定列挙したのであるから、同条に該当しない者は業務条例二八条四項二号に該当し、売買参加者の承認申請は非承認とされることになる。
(二) 本件処分の適法性
承認要領二条三号は、前記1(三)記載のとおり、前記鹿児島市中央卸売市場の開設目的と積送業者の保護及び競争原理の導入による市場の活性化とを調和するために、鹿児島県内の業者に限定してせり権を付与する趣旨で設けられた規定であるから、同号の「主たる事務所」とは、登記簿上の本店では足りず、全般の営業を統括することができる組織と権限を有する事務所であることを要すると解される。
原告は、平成七年六月二七日に本店所在地を津久見市から鹿児島市に移転しているが、原告の業務の基盤は津久見市でのぶりの養殖業にあり、積送業は業務全体の一割にも満たなかったこと、従業員二七名中二五名は大分県内に在住し、代表者の住所も大分県内であったこと、移転された本店所在地は従前営業所が設置されていたマンションの一室と同じであること、積送業に要する車両の運行を鹿児島市内の現在の本店で管理しているとは考え難かったこと、鹿児島水産物取引精算株式会社(以下「精算会社」という。)における買受代金の決済は津久見市の従前の本店との間で行われていたことから、現在の本店は、売買参加者の承認を受けるために名目的に移転されたものにすぎず、全般の営業を統括することができる組織と権限を有する事務所であるとは認められない。なお、本件訴訟において、原告は、買い受けた魚介類の全部または大半を株式会社朝生水産に販売していて、鹿児島県外の他市場に直接出荷していないことも判明している。
したがって、原告は、承認要領二条三号に該当せず、業務条例二八条四項二号の「申請者が卸売の相手方として必要な信用」を有しない者に該当するのであって、本件申請について非承認とした本件処分は適法である。
3 施行規則二九条三項による合理的裁量権の行使
(一) 施行規則二九条三項
仮に、業務条例二八条四項二号所定の「信用」に前記開設目的を阻害しないことという意味での信用が含まれないとするならば、業務条例二八条四項各号は売買参加者の非承認事由を限定列挙したものではないと解されるが、その場合には、施行規則二九条三項は、供給圏内における魚介類の流通の円滑化、卸売場におけるせり・入札の適正な運用、競争原理の導入による適正な価格の形成等の対立しかねない様々な社会的利益に十分配慮し、鹿児島市内にある申請者の営業所等の実体も勘案しながら、総合的に売買参加者の承認、非承認の判断を行わなければならない旨を規定したものであって、被告には、前記開設目的の範囲内での広範な裁量権が付与されているというべきであるから、業務条例二八条四項各号所定の非承認事由に該当しない場合であっても、右裁量権の合理的な範囲内で非承認とすることができるものである。そして、被告は、右裁量権に基づいて、承認要領二条に前記鹿児島中央卸売市場の開設目的を阻害しない者を限定列挙し、また、三条本文において、市場における取引の能率化と流通秩序の保持を阻害するおそれのないものでなければならない旨を規定している。
(二) 本件処分の適法性
原告は、前記2(二)記載のとおり、承認要領二条三号に該当しないし、本件申請を承認した場合には、不定期に多量の魚介類を買い付けて、供給圏内の消費者に対して多種多様の魚介類を適正な価格で安定的に供給することができなくなり、かつ、生産者に対して継続的、安定的な販売ルートを確保できなくなるおそれがあるから、前記開設目的を阻害するおそれがあるのであって、承認要領三条の「市場における取引の能率化と流通秩序の保持を阻害するおそれのないもの」にも該当しない。したがって、本件申請について非承認とした本件処分は、前記開設目的の範囲内での合理的裁量権の行使であって、適法である。
(原告の主張)
1 売買参加者、積送業者の役割等
(一) 鹿児島市中央卸売市場の特質
中央卸売市場の目的は、被告主張のとおり、開設区域における生鮮食料品等の円滑な流通の確保及び右区域外の広域にわたる生産食料品等の流通の改善にあるが、鹿児島市中央卸売市場における右「広域」とは、開設区域である鹿児島市を除いた鹿児島県内に限定されるのではなく、全国の中央卸売市場をも視野に入れた区域を意味するのであって、供給圏なるものは、農林水産大臣が中央卸売市場の計画的配置の当否を把握するための資料として便宜的に設定させているにすぎない。
(二) 鹿児島市中央卸売市場において売買参加者、積送業者の果たす役割等
仲卸売業者及び売買参加者は、いずれも中央卸売市場における卸売業者からのせり権を有する買い手であるが、仲卸業者には、開設区域外の広域にわたる生鮮食料品等の円滑な流通の改善という機能が期待されているのに対して、売買参加者には、卸売市場における買い手としての適切な取引、公正妥当な価格形成等への寄与並びに卸売業者・仲卸業者の専横の抑制及び卸売市場の公開的、開放的運営の維持への寄与が期待されているにすぎない。ただ、売買参加者が過度に増大すると、多種多様の物品の迅速な集中取引の場としての中央卸売市場の機能が阻害されるおそれがある。
また、鹿児島市中央卸売市場は、背後に生産地を控えていて、上場された魚介類等を被告主張の供給圏外である他市場に出荷すること(以下「市場間転送」ともいう。)が当初から予定されている卸売市場であり、市場間転送が円滑になされなければ、生産者に対して継続的、安定的な販売ルートを確保できず、市場における価格が値崩れして生産者が衰弱し、ひいては、供給圏内の消費者に対して魚介類を適正な価格で安定的に供給することも困難になる。鹿児島市中央卸売市場における市場間転送の役割は、専ら積送業者が担ってきたのであり、鹿児島市中央卸売市場の活性化に大いに貢献してきたものである。
(三) 承認要領の改正に至る経緯
卸売場の混乱防止等のために、平成五年四月一日以降はせり権を有しない者の卸売場への入場を規制することになったが、それでは積送業者も入場できなくなり、積送業者を相手として取引をしてきた仲卸業者の業務にも支障が出て、円滑な取引が阻害されるために、年間取扱高が一億円以上であることなどの一定の条件を満たした原告を含む九名の積送業者には卸売場への入場が許可され、同七年七月の売買参加者承認申請時に右許可を受けた積送業者について売買参加者として承認するという方針で鹿児島市、鹿児島市中央卸売市場の関係団体において協議されて、同月一日施行の承認要領の改正に至ったものである。
2 業務条例二八条四項二号の該当性について
(一) 承認要領二条三号の「主たる事務所」の意義
承認要領二条三号は、積送業者を売買参加者として承認するために新設されたものであるから、同号にいう「主たる事務所」とは、積送業をするのに必要な事務所であれば足り、法人の場合には、登記簿上の本店所在地をもって「主たる事務所」に当たるというべきである。
そして、従前、鹿児島県外の大手業者が不定期に多量の魚介類等を買い付けて、供給圏内の消費者に対する多種多様の魚介類を適正な価格で安定的に供給することが阻害されたことはないばかりか、鹿児島県内では供給過剰のために小売業者が販売不振に喘いでいるのが実情である。また、承認要領三条四号は鹿児島市中央卸売市場における継続して三年以上の事業実績があることを、同条七号は精算会社に買受人として登録し、買受代金の支払について保証する者があることをそれぞれ資格要件と規定しているところ、精算会社買出人登録規則六条二号においては、原則として鹿児島県内に、店舗、加工場等営業の拠点を有する者であることが登録の要件とされ、卸売業者、仲卸業者、売買参加者及び小売業者の各団体によって構成される登録委員会の審議を経て買受人として登録することが適当と認められなければならず、名目的に本店所在地を鹿児島県内に移転したにすぎない県外業者が精算会社に買出人として登録されることはないから、「主たる事務所」を右のように解しても、直ちに大手県外業者の参入に連なるわけではなく、供給圏内の消費者に対する多種多様の魚介類の適正な価格による安定的供給が阻害されるおそれはない。
(二) 本件処分の違法性
原告は、昭和五五年一〇月ころから、鹿児島市内に事務所を設置し、原告取締役朝生信雄(以下「朝生」という。)外従業員二名を常駐させて、鹿児島市中央卸売市場で積送業者として仲卸業者から買い付けた魚介類を他市場に出荷してきたのであり、本件申請時の本店所在地は鹿児島市であるから、承認要領二条三号に該当する。
また、原告が承認要領の改正及び本件申請に先立って本店所在地を鹿児島市に移転させたのは、被告の行政指導に基づくのであって、原告では、それを受けて、平成七年七月三日までに新たに株式会社朝生水産を設立してぶりの養殖業を引き継ぎ、原告の業務は本店における積送業のみとなったから、実質的にも現在の本店が原告の主たる事務所であり、被告が、右本店移転が名目的であって、原告の現在の本店を「主たる事務所」と認められないと主張することは、信義則ないし禁反言の法理に反する。したがって、同号不該当を理由として本件申請を非承認とした本件処分は違法である。
なお、原告が、鹿児島市中央卸売市場で買い受けた魚介類を株式会社朝生水産に販売する形態をとっているのは、本件決定後の事情である上に、原告本店の鹿児島市への移転及び株式会社朝生水産の設立に伴う事務の混乱を防止するための便宜上の処理であって、これをもって、原告の「主たる事務所」が鹿児島市内にないということはできない。
3 施行規則二九条三項等による裁量権の範囲の逸脱
(一) 被告の裁量権の範囲
仮に、施行規則二九条三項、承認要領三条が、売買参加者の承認、非承認の判断について、被告にある程度の裁量を認める趣旨であるとしても、施行規則二九条三項の趣旨は承認要領に具体化されているから、右承認、非承認の判断について被告に自由裁量を認める趣旨ではないというべきであって、業務条例、施行規則及び承認要領の規定する要件を具備する場合には、売買参加者承認の申請は承認されなければならないし、また、前記1(一)記載のとおり、被告が売買参加者の承認、非承認の判断に際して考慮しうるのは、売買参加者の過度の増大による多種多様の物品の迅速な集中取引の場としての中央卸売市場の運営を阻害するおそれの有無に限られるというべきである。
(二) 被告による裁量権の範囲の逸脱
原告は、鹿児島市中央卸売市場において、過去一五年間にわたって、積送業者として毎年約二億円に及ぶ魚介類を仲卸業者から買い付けて他市場に出荷してきたのであるから、本件申請を承認することによって鹿児島市中央卸売市場の運営が阻害されるおそれはない。
しかるに、被告は、本件申請の承認は県外大手水産業者の参入に連なり、積送業者が直接卸売業者から魚介類を買い受けることになると、仲卸業者の経営を圧迫し、倒産を招きかねないとして関係団体が反対の意向を申し入れていることを考慮して本件処分をなし、それに対する原告の異議申立てを棄却したのであるから、施行規則二九条三項、承認要領三条本文に基づく裁量権の範囲を逸脱している。
また、平成五年四月一日以降も卸売場への入場を許可された積送業者九名については、内八名が同七年七月一日施行の改正によって新設された年間取扱高が一億二〇〇〇万円以上であることという要件を満たし(承認要領三条六号ウ)、被告は、八名のうち、七名の売買参加者の承認申請を承認しながら、原告の本件申請のみを非承認としており、前記のとおりの原告の鹿児島市中央卸売市場における取引歴等に照らせば、承認された七名と原告とを区別すべき合理的理由はないから、本件処分は、憲法一四条の平等原則にも反する。
したがって、被告は、施行規則二九条三項及び承認要領三条本文において認められた裁量権の範囲を逸脱し、あるいは、裁量権を濫用して本件処分をなしたものであるから、違法である。
第三 争点に対する判断
一 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、これらを覆すに足りる証拠はない。
1 鹿児島市中央卸売市場の概要(甲五、一五、乙一、一二、一三、一四ないし一六、証人出田)
(一) 鹿児島市中央卸売市場の役割、供給圏等
鹿児島市中央卸売市場作成の「魚類市場案内」によれば、中央卸売市場の役割ないし機能としては、①大量の魚介類の能率的、衛生的な集分荷、②公開の場所での法に基づく公正な取引による適正な価格形成、③消費者に対する多種多様の新鮮な魚介類の供給、④生産者に対する継続的、安定的な販売ルートの確保、⑤明確な信用決済に基づく取引が挙げられている。
また、鹿児島市は、平成八年二月ころ、中央卸売市場整備計画(案)作成の手引きに基づき、施設の必要規模の算定基礎として、供給対象人口及び取扱量について地方卸売市場の取扱量等も含む様々な観点からの数値を記載して、中央卸売市場整備計画書を作成したが、そこにおいては、鹿児島市近郊圏域を第一次供給圏、鹿児島湾岸部及び鹿児島市周辺地区を第二次供給圏、鹿児島県内陸部等及び離島地区を第三次供給圏と位置付けている。
なお、第二、三次供給圏内には、一四の地方卸売市場及び四八の小規模卸売市場が存在する。
(二) 市場入荷・配分状況
鹿児島県水産振興課作成の「鹿児島県水産物卸売市場年報平成六年度版」の「第14表 平成六年市場入荷・配分状況」によれば、鹿児島市中央卸売市場は消費地市場と分類され、その入荷状況は、鹿児島県内の地元外船の水揚げが一三パーセント、県外の地元外船の水揚げが二六パーセント、陸送分が六一パーセントであり、配分状況は、地元加工向け(鹿児島市内については大半が消費向け)が三六パーセント、地元向け(鹿児島市を除く鹿児島県内の消費向け)が四三パーセント、県外出荷向けが二一パーセントである。
右のとおり、鹿児島県外からの陸送分(特に、鯵・鯖等の青物、貝類等の近海物)は約六割を占め、県外からの入荷がない場合には、入荷量は通常の二割にも満たない。逆に、直接水揚げされる品目(鰹、小しび、しいらなど)の入荷が多い場合には、積送業者の存在が重要な意味を持ち、卸会社から買付けの要請を受けることもある。
(三) 売買参加者数
平成七年六月時における九州の中央卸売市場魚類市場水産物部における売買参加者数は以下のとおりである。
取扱金額 仲卸業者数 売買参加者数
(1) 北九州市 四三八億二三〇〇万円 二三業者 五一一名
(2) 福岡市 一〇〇二億一四〇〇万円 五三業者 三四九名
(3) 久留米市 一〇四億六七〇〇万円 五業者 二一五名
(4) 佐世保市 一二七億五五〇〇万円 二三業者 一四五名
(5) 大分市 一二一億二七〇〇万円 一四業者 二三四名
(6) 宮崎市 一〇九億二四〇〇万円 一七業者 二五一名
(7) 鹿児島市 二六〇億八二〇〇万円 四一業者 八八名
なお、「魚類市場案内」によれば、同八年四月時における鹿児島市中央卸売市場魚類市場の仲卸業者は三九業者、売買参加者は一二二名である。
2 積送業者(甲一五、乙一六、一七、証人出田、同青木、証人井出上)
中央卸売市場においては、通常、仲卸業者が当該中央卸売市場に直接水揚げされた品目の一部を他市場へ出荷する業務を担当している。
しかし、鹿児島市中央卸売市場においては、消費市場である上に、県外出荷の対象となる直接の水揚げ量が減少してきていたために、専門的に出荷をする仲卸業者が育成されにくかったこと、せり権を持たない者の卸売場への入場を事実上容認してきたこと、鹿児島市外の業者は、生産者として郡部で水揚げされた魚介類を鹿児島市中央卸売市場に出荷する業務を行っていて、その一貫として鹿児島市中央卸売市場から他市場への出荷を業務とすることに親しみやすかったことなどの諸事情が相俟って、昭和五〇年ころ以降、右郡部業者を中心として、卸売場内で仲卸業者に購入を希望する魚介類を具体的に指示してせり権を行使させ、仲卸業者がせり落とした魚介類を買い受けて、県外の他市場へ出荷することを中心的業務とする積送業者が、鹿児島市中央卸売市場に独自の業者として発生、成長してきた。そのために、鹿児島市中央卸売市場において、他市場への出荷業務を担当している仲卸業者は数業者にすぎない。
3 卸売場への入場規制等(甲八の1ないし4、6ないし8、九の1ないし4、一一ないし一三、一五、乙一六、一七、証人出田、同青木、同松屋、同井出上、弁論の全趣旨)
(一) 取引改善委員会の設置
鹿児島市は、平成三年一〇月ころ、鹿児島市中央卸売市場整備計画による卸売場仲卸売場の施設整備終了に伴って、取引改善の要請を関係各団体に打診したところ、関係各団体では、同年一一月ころに大分中央卸売市場を視察し、同月二〇日、卸売業者二社(鹿児島県漁業協同組合連合会・鹿児島魚市株式会社)、鹿児島市水産物卸売協同組合、鹿児島魚類市場売買参加者協同組合、小売組合団体三社(鹿児島鮮魚協同組合・鹿児島県水産物商業協同組合・鹿児島県魚介類移動販売商業組合)等で構成される鹿児島市中央卸売市場魚類市場連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が開催され、その結果、取引改善委員会を設置して、右要請について協議することとなった。
取引改善委員会は、連絡協議会を構成する各団体から常任委員一九名を選任して構成され、委員長には鹿児島県魚介類移動販売商業組合理事長の平友茂(以下「平」という。)が、副委員長には鹿児島鮮魚協同組合理事長の青木忠(以下「青木」という。)がそれぞれ就任した。
(二) 卸売場への入場規制
(1) 取引改善委員会は、平成四年一月一〇日から同五年四月までに合計三〇回開催されて、種々の問題について協議したが、その中心的議題は、卸売場への入場規制の手法(特に積送業者の取扱い)と代金精算業務の合理化の問題であり、特に、同五年一月ころからは、せり権を有しない者の卸売場への入場規制の必要性について議論された。
しかし、せり権を有しない者の卸売場への入場を規制すると、積送業者も入場できないことになって、従前行われてきた取引が停滞するおそれがあるため、取引改善委員会では、積送業者に対して特別に入場許可を与える必要性について議論され、平において、出田正信鹿児島市中央卸売市場魚類市場長(以下「出田市場長」という。)にその旨を伝えた。
出田市場長らは、取引改善委員会に対し、①積送業者の定義付け、②次回(平成七年)の売買参加者の承認時期に積送業者を売買参加者として承認する方向で検討し、その方向性が定まった場合には、その旨の要望書を関係各団体の代表者名義で提出されたいこと、③次回売買参加者の更新時に、仲卸業者保護のために年間買上額の引き上げなどについて検討することの要否、④売買参加者のあるべき姿の検討の要否、⑤次回売買参加者として承認する方向であれば、積送業者に移行期間条件付きとして入場を認める意向であることを指示ないし示唆した。
(2) これを受けて、原告を含む一五名(内一三名は鹿児島県内の業者である)の積送業者が、平に対し、平成五年二月ころ、「入場規制に伴う特別入場許可要望書」を作成、提出したので、そのころ、取引改善委員会は、出田市場長らに対し、右申請のあった積送業者について特別の入場許可を与えるように要請するとともに、「せり売場への特別入場許可証の交付について」と題する書面を作成し、取引改善委員会において右要望は適切な理由があると判断したので、開設者である鹿児島市の管理事務所に対し、特別入場許可証の発行を依頼した旨を知らせる文書を作成して、右積送業者に交付した。
また、取引改善委員会は、出田市場長に対し、同月二二日ころ、取引改善委員会(委員長平友茂)、鹿児島水産物卸売業者協会(会長久保信行)、鹿児島市水産物卸売協同組合(理事長倉田一巳)及び鹿児島魚類市場売買参加者協同組合(理事長奥勲)の各作成名義で「積送業者への売買参加者資格許可証授与に関するお願いの件」と題する書面を作成、提出して、特別入場許可証の発行を依頼した積送業者については、次回の承認時期(平成七年)には売買参加者の資格を与えることが適切であり、市場の発展にもつながると判断し、行政当局にもその旨の検討をして欲しい旨を要望した。
その一方で、出田市場長らにおいても、「積送業者の定義」と題する書面を作成して、①せり参加の意思のある者、②市場で買い入れ、直接他市場へ出荷する者(他市場への買受けと見合う出荷証明が必要)、③大口需要者(一億円以上取り扱う者であることの仲卸業者の証明)、④市内に居住または事務所・営業所を有し、常駐する職員がいること(住民票・納税証明)、⑤開設区域内に店舗を有していない者、⑥仲卸業者と競合しない者(供給圏内で仲卸行為をしないこと)、⑦資力・信用のある者(精算会社に登録のある者)を積送業者と定義付けて、右に該当する者に卸売場への特別の入場許可を与えることについて検討していた。
(三) 積送業者に対する卸売場への特別入場許可
鹿児島市は、平成五年三月中に、申請のあった積送業者一五名のうち、前記(二)記載の基準に合致する九名(但し、一名は六月ころに追加されたもの)について、卸売場への入場を許可した。
そこで、取引改善委員会は、右許可を受けた積送業者に対し、同月二九日付けで、「特別入場許可証授与にあたっての注意事項について」と題する書面を作成、交付し、また、各積送業者には誓約書を差し入れさせて、せり場の規律を乱さないことについての注意を促し、それを誓約させた。
(四) 精算会社の設立
代金精算業務の合理化の問題については、取引改善委員会における協議の結果、各取引における代金決済の迅速化、確実化を目的として、平成五年四月ころ、鹿児島魚市株式会社、鹿児島県漁業協同組合連合会、鹿児島市水産物卸売協同組合、鹿児島魚類市場売買参加者協同組合、鹿児島県魚介類移動販売商業組合、鹿児島鮮魚協同組合、鹿児島県水産物商業協同組合が設立発起人となって、魚類市場における売渡代金の集金の代行業務等を目的とする精算会社が設立された。
精算会社買出人登録規則によれば、鹿児島市中央卸売市場魚類市場で取引を行うには、精算会社に買出人登録をしなければならず、右登録を受けるには、登録に関する業務のために設置される登録委員会における審議を経て、買出人として登録することが適当であると認められることを要するが、右規則は、資格要件として鹿児島県内に店舗等営業の拠点を有する者であることなどを規定している。
なお、原告は、平成五年四月以降、精算会社に買出人としての登録をして、積送業者としての取引を継続している。
4 承認要領の改正作業(甲一〇、一五、乙五ないし七、一五、一六、一七、証人出田、同青木、同松屋、同井出上)
(一) 承認要領改正の必要性
被告は、売買参加者の承認、非承認の判断について、承認要領を作成して、売買参加者の承認対象、資格要件、承認時期、提出書類等を規定していたが、旧承認要領(平成七年七月一日施行の改正前)は、売買参加者の承認対象を鹿児島市内の小売業者または大口需要者、一定の加工設備等を有する加工業者に限定していた(旧承認要領二条一、二号)ため、前記卸売場への特別入場許可を受けた積送業者を売買参加者として承認するには、承認要領の改正が必要となった。
出田市場長らは、右改正作業に際して、右積送業者にせり権を与える方法として、仲卸業者としての許可では、業務条例において最高限度を四五名とする数の制限があり、卸売市場内の店舗にも余裕がないことから、売買参加者として承認して、せり権を付与する方向で検討した。
(二) 改正に伴う問題点
出田市場長らは、仲卸業者は卸売市場内に店舗を有して地元と密着しているから、他市場への出荷業務に際して、供給圏内における魚介類の流通を大きく乱すことはないであろうと期待できるが、積送業者が自らせり権を行使するとなると、その動向次第で供給圏内における魚介類、特に鮪類、白身の魚である瀬物の流通に大きな影響が出るおそれがあることを懸念していた。
また、旧承認要領二条一号の申請者の「住所」ないし「所在地」については本店所在地と解していたが、積送業者について、本店所在地が鹿児島県内にあれば足りるとすると、県外の大手業者が名目的に本店を移転して売買参加者の承認を受けることになってしまうと苦慮した。
そこで、積送業者を売買参加者の承認対象とするについては、鹿児島県内の業者に限定するために、全般の営業を統括することができる組織と権限を持つ事務所を鹿児島県内に有することが必要であるとして、旧承認要領とは別に、「主たる事務所」という概念を用いて、承認対象としての積送業者の選択をすることとした。
(三) 関係各団体からの意見聴取等
出田市場長らは、平成六年夏ころから、承認要領の改正について、関係各団体からの意見聴取を始め、当初、仲卸業者及び売買参加者から売買参加者の承認対象を広げるべきではないとして反対の意向が示されるなどしたが、最終的には、市場の活性化のためには、一定範囲の県内業者まで承認対象を広げるのは止むを得ないということで了解を得た。
また、同七年三月ころ、鹿児島市議会定例会において、承認要領の改正に関する個人質疑が行われ、経済局長は、「市外の者は受け入れるが、県外の業者については受け入れない方向で業界と取り決めている」旨を答弁した。
そして、同年四月ころには、連絡協議会の同意を得て、承認要領の改正内容が確定して、改正され、同年七月一日に施行された。
右に至る過程における関係各団体等との議論の中心は、県内業者のうちいかなる範囲の業者まで承認対象とされるのかという点であり、県外の積送業者を承認対象としないことについては、関係各団体の認識も一致していて、殆ど議論されることはなかった。
(四) 承認要領の改正点
(1) 二条三項
前記(二)記載のとおりの「主たる事務所」という概念を用いて、売買参加者の承認対象となる積送業者を、個人の場合にあってはその住所が県内にあり、法人の場合にあってはその主たる事務所の所在地が鹿児島市内にあり、または、市内を除く鹿児島県内に主たる事務所の所在地があり、市内に支店又は営業所を置き、県外の他市場に出荷することを業務とする者と規定した。
なお、高知市の売買参加者承認要綱は、開設区域内に原則として独立した店舗を有する者を承認対象とする旨規定し、浜松市中央卸売市場売買参加者承認要領は、そのような制限を設けていない。
(2) 三条六項
二条三項に基づく積送業者の仲卸業者からの前年の年間買受額は、卸売場への特別入場許可の際には一億円とされていたが、一億二〇〇〇万円以上とされて、引き上げられた。
5 交渉の経過等(甲一五、一六、乙一五、一七、証人出田、同青木、同朝生、同井出上)
(一) 平成五年一〇月ころ
青木は、平成五年一〇月ころ、平から原告も承認の対象になったとの話を聞いて、出田市場長に確認したところ、条件が整えば、承認対象者であると説明された。
(二) 牧野及び朝生と出田市場長
朝生は、稲森某から、原告が売買参加者となることについて一部の仲卸業者から強い反対があるとして、原告代表者が仲卸業者の従業員としてせり参加人の資格を取得してはどうかとのアドバイスを受けたことがあった。
そこで、朝生は、積送業者の代表である有限会社牧野水産の牧野啓一郎(以下「牧野」という。)と相談したところ、原告が右アドバイスに従うと、他の積送業者の売買参加者の承認にも影響を及ぼすおそれがあるということになり、出田市場長を訪問したが、卸売場への特別入場許可を受けた原告を除く八名の積送業者についての売買参加者の承認の確約は得られなかった。
(三) 平成七年五月二九日
井出上尚武鹿児島市中央卸売市場魚類市場業務係長(以下「井出上業務係長」という。)は、平成七年五月二九日、連絡協議会において、承認要領の改正案の骨子として、県外の積送業者は売買参加者の承認対象とならないことなどを説明したところ、その直後に青木から原告の件で話を聞きたいとの電話があり、鹿児島鮮魚協同組合の事務所に呼び出された。
右事務所では、青木、朝生、鹿児島鮮魚協同組合事務長山口某が同席し、青木から、原告は鹿児島市中央卸売市場で一五年も取引実績があるのだから承認してはどうかと申し入れられたが、井出上業務係長は、承認要領を満たさなければ駄目である、原告は主たる事務所が鹿児島県内にないと答えた。
すると、朝生から、原告と同一内容の新会社を設立したら承認されるかとの提案があったが、井出上業務係長は、原告と新会社とは別会社であり、取引実績がないから駄目だと思うと答えた。
さらに、青木から、重ねて、鹿児島市中央卸売市場での取引実績が一五年もあるのだから、市場活性化のために認めて欲しいと要請されたが、井出上業務係長が被告が決めることであると答えると、青木は憤激して大声を出すなどしたので、井出上業務係長は退席した。
なお、同業務係長は、出田市場長に対し、右申入れの件を報告した。
(四) 平成七年五月三一日
青木、久保信行(取引改善委員会委員長。以下「久保」という。)、朝生及び牧野は、平成七年五月三一日、出田市場長を訪ねて鹿児島市中央卸売市場魚類市場管理事務所市場長室に赴き、朝生から、原告と同一内容の新会社を設立すれば承認されるかとの話が出たが、出田市場長は、取引実績等の要件を満たさないと承認対象とはならないと答え、前記(三)記載と同様のやりとりがなされた。
その後、井出上業務係長が市場長室に呼び出され、青木から、原告の本店所在地を鹿児島市に移転すればよいのかと迫られたが、出田市場長らは、承認要領の要件を満たさなければ駄目であると答えた。
6 本件処分とその前後の経過(甲三の2、一五、一六、証人出田、同青木、同松屋)
(一) 仲卸業者の反対
仲卸業者の団体である鹿児島市水産物卸売協同組合は、原告が売買参加者として承認されることに反対であった。そこで、松屋保男(鹿児島市水産物卸売協同組合理事長)らは、平成七年四、五月ころ、鹿児島県移動販売商業協同組合の顧問であった森山市議会議長を訪ねて、仲卸業者としては、県外業者が売買参加者として承認されることには反対である旨の陳情をした。
(二) 本件処分
原告は、平成七年六月二六日に本店所在地を津久見市から肩書所在地に移転した上、同年七月七日、業務条例二八条三項及び施行規則二九条一、二項所定の様式による承認申請書及び添付書類を提出して本件申請をなしたが、被告は、原告の本店は「主たる事務所」に当たらないと判断して、本件申請について非承認とする旨の本件処分をなした。
(三) 積送業者からの要望
卸売場への特別入場許可を受けて、新規に売買参加者として承認された積送業者七名は、被告に対し、連名で平成七年八月三〇日付け売買参加者承認についての要望書を提出し、本件処分について納得できず、原告についても承認されたいと要望した。
7 原告の取引歴等(甲一の1ないし4、12、13、一四、一六、乙九、一〇、証人朝生、同井出上)
(一) 平成七年六月ころまでの原告の状況
原告は、設立前である昭和五三年ころから、仲卸業者である合名会社田辺商会との取引を開始し、同五五年九月ころには朝生が家族とともに鹿児島市に居住して、遅くとも昭和六〇年四月五日以降は、肩書所在地のマンションの一室に営業所を設置し、主として鮪の買付けを行う積送業者として取引を行ってきた。
原告の従業員は二七名であったが、鹿児島市内に住所を有する者は池田治及び平石修の二名であり、右二名と朝生とで積送業を行ってきた。
配送車は、運送業者を使ったり、津久見市からぶりを搬送してきた車両を利用するなどした。
なお、朝生は、一旦、子供の就学先の関係で平成三年三月に名目上住民登録を大分県佐伯市に移したが、同六年一月一日付けで鹿児島市に再移転した。
(二) 原告の仕入額と出荷先等
本件申請における売買参加者承認申請書添付書類によれば、原告の平成六年四月から同七年三月までの間の売上額は二四億五〇八〇万七六四五円であるところ、原告の鹿児島市中央卸売市場における仕入額は、同四年度は一億八〇〇〇万円、同五年度は一億六九四七万九七〇三円、同六年度は二億一二七四万二九五八円であり、主な出荷先等は、宮崎県延岡市の小売業者に一億二八〇〇万円余、大分市内の業者に七五〇〇万円余、別府市の地方卸売市場に五八〇〇万円余である。また、積送業者一〇社(うち七社は、売買参加者として承認された。)中では、平成六年度で四番目の取扱高である。
また、資産調書及び貸借対照表によれば、資産と負債は同額である。
(三) 株式会社朝生水産の設立
原告の本店所在地を津久見市から鹿児島市に移転するには、津久見市における漁業権の問題等が存在したものの、平成七年六月二二日に本店所在地を従前営業所を設置していた肩書住所地に移転し、朝生らは、同年七月三日、生鮮魚介卸売業、魚介類の養殖等を目的とする株式会社朝生水産を津久見市に設立して、ぶりの養殖、販売等の業務を引き継ぎ、原告の業務は、鹿児島市における積送業のみとなったが、原告は、鹿児島市中央卸売市場において買い受けた魚介類を株式会社朝生水産に販売するようになり、他市場への出荷は株式会社朝生水産としてなされている。
但し、買受代金の決済は、津久見市に在住している朝生の妻が、原告の従業員として株式会社朝生水産において行っている。
なお、株式会社朝生水産の設立は年度途中であったことから、従業員、搬送用トラック等の引継は、同八年四月になって行われた。
二 売買参加者の承認、非承認における被告の裁量権の有無
1 本件処分は、前記第二の一2、第三の一6(二)に認定のとおり、承認要領二条三項の「主たる事務所」に該当しないことなどを理由としてなされたものであるが、この点について、被告は、業務条例二八条四項二号の「卸売の相手方として必要な信用」は、鹿児島市中央卸売市場の開設目的を阻害しないことという意味での信用も含むものであり、右信用の有無の判断については被告に裁量権が認められ、右裁量権に基づいて制定された承認要領二条は、右信用を有する者を限定列挙したものである。あるいは、施行規則二九条三項に基づいて、被告には鹿児島市中央卸売市場の開設目的の範囲内での広範な裁量権が認められ、右裁量権に基づいて制定された承認要領二条は、右開設目的を阻害しないものを限定列挙したものであるなどと主張するので、まず、被告の裁量権の有無等について判断する。
2 被告の裁量権の有無
(一) 中央卸売市場の目的ないし機能
卸売市場法は、卸売市場の整備を計画的に促進するための措置、卸売市場の開設及び卸売市場における卸売その他の取引に関する規制等について定めて、卸売市場の整備を促進し、及びその適正かつ健全な運営を確保することにより、生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図り、もって国民生活の安定に資することを目的とするから(同法一条)、卸売市場には、全国各地で生産される多種大量の生鮮食料品等を消費地に効率的、継続的に集分荷させ、生産者には生鮮食料品等の安定的な販路を提供し、消費者には生活上不可欠な生鮮食料品等の安定的な供給を確保するための拠点ないし担い手となり、かつ、大量の販売取引を適正迅速に処理して、公正妥当な価格を形成させるという役割ないし機能が期待されている。
そして、中央卸売市場は、生鮮食料品等の流通及び消費上特に重要な都市及びその周辺の地域における生鮮食料品等の円滑な流通を確保するための生鮮食料品等の卸売の中核的拠点となるとともに、当該地域外の広域にわたる生鮮食料品等の流通の改善にも資するものとして開設される卸売市場であり(同法二条三項)、農林水産大臣が定めた中央卸売市場整備計画において生鮮食料品等の流通及び消費上特に重要な都市で中央卸売市場を開設することが必要と認められる都市及びその周辺地域であって、その区域内における生鮮食料品等の流通事情に照らし、その区域を一体として生鮮食料品等の流通の円滑化を図る必要があると認められる一定の区域が同大臣によって開設区域と指定され(同法七条)、同大臣の認可を受けて右開設区域内に開設されるから(同法八条)、主として開設区域内における多種大量の生鮮食料品等の能率的集配機能の中核的拠点となり、その適正かつ健全な運営の確保による公正妥当な価格の形成という役割ないし機能が期待されているということができる。
(二) 卸売市場法の規定内容
卸売市場法は、卸売市場を計画的に整備するために、卸売市場整備基本方針(同法四条)、中央卸売市場整備計画(同法五条)等について規定し、中央卸売市場の適正かつ健全な運営を確保するために、その開設、卸売業者等、売買取引について規定(同法第三章第一ないし三節)している。
ところで、中央卸売市場における卸売は、卸売業者と仲卸業者及び売買参加者との間でなされるところ(同法三七条)、卸売市場法は、売手である卸売業者については、農林水産大臣による許可制を採用して、その申請、許可基準等について詳細に規定し、特に、申請者が当該中央卸売市場において卸売の業務を開始するときは、当該中央卸売市場の卸売業者の間において過度の競争が行われ、その結果当該中央卸売市場における卸売の業務の適正かつ健全な運営が阻害されるおそれがあると認められる場合には、許可しないことができると規定するとともに(一七条二項二号)、卸売はせり売又は入札の方法によることを原則とし(三四条)、仲卸業者及び売買参加者等に対する不当な差別的取扱いを禁止する(三六条一項)などしている。他方、買手のうちの仲卸業者については、開設者による許可制を採用し(三三条一項)、その許可基準等を業務規程に委任するなどと規定し(同条三項)、同じく買手である売買参加者については、「業務規程で定めるところにより開設者の承認を受けた者」と規定する(三六条一項)のみである。
(三) 業務条例
法九条一項は、同法八条一号又は二号に該当する地方公共団体が同条の許可を受けようとするときは、業務規程及び事業計画を定め、これを申請書に添えて、農林水産大臣に提出しなければならない旨を定め、同法九条二項は、中央卸売市場の位置及び面積(同項一号)のほか、施設の使用料(同項七号)等を業務規程に定めるべきものとし、各開設地方公共団体は、右法にいう業務規程として、右各事項を定めた業務条例を制定しているが、鹿児島市においても、同条二項に関する事項及び施設の使用、監督処分等について定め、その適切かつ健全な運営を確保することにより、生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図り、もって市民等の生活の安定に資することを目的として、業務規程に当たる業務条例を制定し、これとともに農林水産大臣による市場開設の許可を受けている。そして、仲卸業者については、法三三条三項所定の事項について規定するとともに、市場における仲卸の業務を適正かつ健全に運営し、取扱物品についての公正かつ妥当な評価及び経営の近代化に努め、公正明朗な取引を推進しなければならないと規定している(業務条例二七条)のに対し、売買参加者については、二八条三項所定の承認申請書を被告に提出して、市場及び取扱品目の部類ごとに被告の承認を受けなければならず(同条一、二項)、被告は、同条四項一ないし四号に該当する場合を除き承認しなければならないと規定する。そして、右各号の要旨は、申請者が破産者で復権を得ていないものであること(一号)、卸売の相手方として必要な知識及び経験又は資力信用を有しないものであること(二号)、卸売業者・仲卸業者であるとか、その役員ないし使用人であること(三号)、条例に違反するなどして承認の取消しを受けてから一年を経過していない者であること(四号)であり、右一、三、四号の意味内容は一義的に明らかである。
(四) 被告の裁量権の有無
以上によれば、卸売市場法は、本来、自由競争原理に支配された公開の市場において行われるべきである生鮮食料品等の取引について、生鮮食料品等の取引の適正化、その生産及び流通の円滑化、国民生活の安定の確保という公共の利益を確保実現するために、その補助と規制のもとに多種大量の生鮮食料品等の能率的集配機能の中核的拠点としての中央卸売市場を地方公共団体に開設させ、その適正かつ健全な運営を確保することにより、中央卸売市場において大量の取引を適正、かつ、確実迅速に処理させることを目的としているところ、卸売業者及び仲卸業者については、卸売市場法及び業務条例において詳細に規定しているのに対し、売買参加者については、卸売市場法は何らの規定もせずに開設者の業務規程に委任しており、右業務規程に当たる業務条例も、承認申請書の記載事項、前記のとおりの内容の非承認事由について規定するのみであるから、卸売市場法及び業務条例は、主として卸売業者及び仲卸業者に対する公的規制を通して中央卸売市場の適正かつ健全な運営を確保しようとしているのであって、買手にすぎない売買参加者に対して特段の規制を及ぼす趣旨ではないと解される。もっとも、中央卸売市場の開設は、地方公共団体が市場を提供してその求めによりなされ、開設許可後は、使用者である卸売業者から使用料を徴収するほか、その市場入場の許可等を通じて当該地方公共団体所有の市場の管理を行うこととされている(業務条例第四章 市場施設の使用)のであるから、売買参加者の承認は、行政財産の使用許可の性質を含む処分行為というべきであるが、その業務条例自体も開設許可の資料とされ、内容の変更をしようとするときは農林水産大臣の許可を受けなければならない(法一一条)のであるから、売買参加者についての定めである業務条例二八条四項各号も、これを規則等によって別異に解釈することは許されないというべきであり、右各号は、例外的な売買参加者の非承認事由を限定列挙したものと認めるのが相当である。
したがって、被告は、申請者が業務条例二八条四項各号に該当しない限り、売買参加者の承認をしなければならないのであって、右各号に該当しないにもかかわらず、売買参加者の承認をしないといういわゆる効果裁量は認められない。
ただ、業務条例二八条四項二号については、「卸売の相手方として必要な知識及び経験又は資力信用を有しない者」の意味内容が一義的に明らかではなく、被告には、右要件該当性の認定判断についていわゆる要件裁量が認められることになるが、仲卸業者の許可の要件としても同旨が掲げられており(一九条四項四号)、同号は、多種大量の生鮮食料品等の能率的集配機能の中核的拠点としての中央卸売市場における大量の取引の適正、確実迅速な処理の確保という観点から規定された非承認事由というべきであるから、右裁量権は、この観点からのみ行使することが許されるにすぎないというべきである。
被告は、第二の二の被告の主張2及び3記載のとおり主張するが、業務条例二八条四項二号の「資力信用」を別義に解すべき理由はなく、施行規則は被告が業務条例の施行に関し必要な事項を規定したものにすぎず(業務条例八六条)、承認要領も被告の内部準則にすぎないから、業務条例二八条四項二号、施行規則二九条三項、承認要領三条本文のいずれをもってしても、業務条例二八条四項各号不該当の場合にも売買参加者の承認申請について非承認とすることができるという被告の広範な裁量権の根拠とすることはできないのであって、これに反する被告の主張は採用することができない。
三 本件処分がその裁量権を逸脱したか否かについて
1 そこで、本件処分について判断するに、前記第二の一3記載のとおり、原告が業務条例二八条四項一、三、四号に該当しないことについては当事者間に争いがないから、同項二号の該当性のみが問題となる。
2 前記二(四)に認定説示のとおり、「卸売の相手方として必要な知識及び経験又は資力信用を有しない者」が売買参加者の非承認事由とされたのは、卸売業者と仲卸業者及び売買参加者との間でなされる卸売については、仲卸業者と買出人との間で行われる小売取引と異なり、中央卸売市場をして多種大量の生鮮食料品等の能率的集配機能の中核的拠点として機能させるために、大量の取引を適正、かつ、確実迅速に処理する必要があり、売買参加者を無限定に増大させることはできないからである。したがって、「卸売の相手方として必要な知識及び経験又は資力信用を有しない者」に該当するかどうかの判断は、売買参加者の承認を受けようとする取扱品目の部類に属する物品について一定期間以上の取引経験を有し、右物品を適正に評価しうる専門的技能経験を有するかどうか、年間買受額が一定金額以上であるかどうか、買受代金を確実迅速に決済するために必要な資産を有するかどうかといった観点からなされなければならず、被告が、その内部準則である承認要領三条において、売買参加者の資格要件として、市場における売買取引について必要な知識を有する者(一号)、年齢満二〇歳以上の者で、申請に係わる取扱品目の部類に属する物品の販売又は加工等の業務について五年以上の経験を有すると認められる者(二号)、申請者が法人である場合にあっては、常時取引に参加する者が、一、二号の要件を備えている者(三号)、一定の店舗、事務所、工場又は、事務所を有し継続して三年以上の事業実績がある者(四号)、申請者が市場関係業者に対し著しく遅延した支払債務のない者(五号)、申請に係わる取扱品目の部類に属する物品の仲卸業者からの前年の年間買受額が二〇〇〇万円ないし一億二〇〇〇万円以上であると認められること(六号)、精算会社に買受人として登録し、買受代金の支払について保証する者があること(七号)などを規定していることは、前記裁量権の合理的範囲内であるとして是認し得るものである(もっとも、承認要領に規定された期間ないし金額が合理的なものであるかどうかも別途問題となりうる。)。そして、原告については、前記一7に認定のとおり、鹿児島市内に営業所を設置して、鹿児島市中央卸売市場魚類市場水産物部において、設立当初から一五年以上にわたって積送業者として取引を継続し、本件申請時までの過去三年間の年間買受額はいずれも一億五〇〇〇万円以上であり、資産状況は資産と負債が同額であるが、右の長年に及ぶ多額の買受代金の決済が著しく遅延したなどの事情は認められないから、承認要領三条三ないし六号の要件をいずれも充足している。
3 しかして、被告は、申請者である原告が新たに定められた承認要領二条三号に該当しないとして本件処分をしたものであるが、右承認要領は、前記のとおり、新たに積送業者を売買参加者として加えることとし、同号において申請者の主たる事務所の所在地が鹿児島市内あるいは鹿児島県内にあることとして承認対象者を制限し、一方、同要領三条六号においては、二条三号の申請者の開設地域への近接度合いに応じて取扱高を定め、申請資格をより厳しくしたものであって、結局、帰するところは、開設地域に住所を有する業者らを優遇し、県外積送業者を排除する趣旨のものであって、前記のとおり、中央卸売市場がその開設を希望する地方公共団体によりなされ、その行政財産たる市場を使用して卸売業務が行われることに照らせば、かかる差異のある取扱いを定めること自体が業務条例二八条の趣旨を逸脱したものとは言い難い。また、施行規則二九条三項の「取引の適正化、流通の円滑化への配慮」も地域性の考慮、開設地域の保護を一次的とし、この保護を考慮すべしとの趣旨と解されるところ、原告の鹿児島市への本店移転は、申請直前である上、原告は、前記マンションの一室を営業所とし、買い受けた鮮魚類は県外で売却するなどしていたのであるから、その申請の当否については、業務条例や各規制等の審査に当たって検討し、考慮すべきものということができる。
しかしながら、業務条例二八条四項が市場内の売買の確実迅速な処理の確保の観点から規定されたものであることは前記のとおりであり、これを原告が資力信用を有するか否かの実質面から直截に検討すれば、原告は、同承認要領三条六号に定める取扱高を大きく超えて取引をし、平成六年度取扱高は積送業者中、四番目である上、鹿児島市中央卸売市場では、買出人らは、精算会社に登録した者であってはじめて市場における買出し等ができるのであり、原告の代金決済は、津久見市からの送金によりなされていたものの、平成五年四月からは精算会社に買出人登録をして決済してきたのであるから、他の承認された積送業者と比較し、原告が特に資力信用を有しないということはできない(なお、前記積送業者の卸売市場への特別入場許可に際し、精算会社に登録のある者は資力信用があるとして扱われていたことは前記認定のとおりである。)。
また、一般に法人の本店は、その主たる事務所といえるところ、原告は、遅くとも昭和六〇年四月以降は、前記マンションに営業所を設置し、これを拠点として鮮魚類の買付けをしてきており、鹿児島市中央卸売市場における積送業を担当してきた朝生は、鹿児島市内に住民登録をしていたところ、新たな承認要領を考慮し、従前の原告会社の積送部門以外を切り離して独立させて別個の株式会社とし、本店を鹿児島市に移転させたのであるから、申請時点においては、承認要領二条三号の「主たる事務所の所在地が鹿児島市内にある」と評価しうるものである。
以上のほか、積送業者による買出しが鹿児島市中央卸売市場に特有のものとして認められ、継続されてきたのも、同市場における売買参加者が他市場に比較して少ないことにあったと推認されることなどを考慮すると、承認要領二条三号に該当せず、業務条例二八条四項二号に該当するとして、原告の本件申請を非承認とした被告の本件処分は、その裁量の範囲を逸脱した違法なものというほかはない。
4 被告は、県外業者の参入により取引の円滑を害する結果を招来し、さらには中央卸売市場開設の趣旨を没却するとして縷々主張するが、県外の業者が名目上、本店を移転させて開設区域内または供給圏内における円滑な流通ができなくなる虞があるとの点をみても、前記のとおり、承認要領三条は、年間の買受高実績があることを資格要件の一つとしており、証人出田正信の証言によれば、その前提としての精算会社の買受人としての登録自体が原則として鹿児島県内の者とされていることが認められるのであるから、かかる虞が現実化することは、殆どないといわざるを得ない。また、県外から鹿児島市中央卸売市場に陸送されてくる入荷分がさらに他県外に積送されることは極めて少ないと考えられ、したがって、積送業者により県外の卸売市場に運ばれる商品の多くは、これを除く分であると推認されることも考えると、本件申請を承認することが取引の適正化、流通の円滑化を阻害するとの被告の主張は、採用することができず、他に右認定、判断を左右する証拠はない。
5 右のとおり、原告は、業務条例二八条四項二号「卸売の相手方として必要な知識及び経験又は資力信用を有しない者」に当たらないのであって、原告の本店が全般の営業を統括することができる組織と権限を持つ事務所であると認められないことなどを理由として本件申請を非承認とした本件処分は、同号の要件充足性の認定判断において認められる前記裁量権の範囲を逸脱してなされたものであって、違法であるから、取消しを免れない。
四 以上のとおりであるから、原告の請求は理由があり、よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官牧弘二 裁判官山本善彦 裁判官近藤猛司)